駅を出たところで、彼女はあたしを待っていた。。 
「センセっ」 
 週末の人の往来で普段より混み合う駅前広場で、ぴょこぴょこ揺れる学校指定のダッフルと浅黄色のツーテール。 
 駅前の喧騒の中、決して大きくはない彼女の声に気付いたのは、彼女がそこに居たのが予想外だったから。 

「ひょっとして、迎えに来てくれたの?」 
 信号待ちのもどかしさを隠して駆け寄ったあたしの問いに、彼女はふるふると首を振る。 
「ううん。ワタシも、さっき駅に着いたトコ」 
「だったら、先に行ってて良かったのに…」 
 合い鍵も有るんだし。寒かったでしょ、と言うよりも早く。 
「だって、」 
 小さい身体が、ぽふっ…とあたしの身体に飛び込んだ。 
「だって……センセと一緒に、帰りたかった、から」 
 わわっ。わーわー。 
 嬉しい事言ってくれるけど、こんな往来のど真ん中でっ、と。 
 人目憚る様に周囲を見回して……納得した。 

 モノトーンの町を彩る、赤と緑と白のデコレート。 
 喧騒の中に流れるクリスマス・ソング。 
 そして、通りを連れ添って歩く――家族連れに、恋人達。 
 ……確かにこれではちょっと、一人で帰るのは寂しい。 

「――ん、そだね」 
 飛び込んで来たその背に、受け入れる様に手を回して。 
「待っててくれて、ありがと」 
 彼女が残していた距離を、ぎゅっ、と。鼓動一つ分近付けた。 
「ふぁ。センセっ、大胆だよっ」 
「飛び込んできたのは、キミだよ。それに――」 
 戸惑う様に声を上げた彼女の、その耳だけに届くように囁いて。 
「今日ぐらいは、ちょっと大胆でも……罰は、当たらないと思うな」 
 街往く人々は、自分達の幸せに夢中だから。 
 私達が少し――皆に気付かれない程度に――大胆になれるのは……想定の範囲内って奴だ、うん。 

「それじゃ、帰ろっか?」 
 でもそのままじゃ歩けないから、そっと身体を離して笑い掛ける。 
「うん。帰ろ、センセ」 
 彼女はちょっと名残惜しそうだったけど。まぁそれはおあいこって事で。 

――続きは、帰ってから、だね。 
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