いつも そばに いるよ
* * *
数ヶ月前。UGN支部の長を務めていた彼女は、帰途にFHの襲撃を受けた。
たまたま駆けつけたUGNイリーガルによって救い出されるも、手酷い傷を受けた彼女の心は、それ以後自分の殻に閉じ籠もった
ままだった。ジャーム化の恐れもあり、体よく言うならば『関連施設に入院する』形となっていた。
「いなくなってたんです。いつの間にか。意識なんてずっとないままだったのに」
そうして彼女は彷徨う。ただひとつの想いで。
その戦略眼と戦局分析能力。超高密度の情報能力に拠って、彼女はこう呼ばれていた。“水晶の瞳”、と。
「嫌われてしまったから。でも、それでも」
育まれてしまった感情。ひとり決めに思い込んでしまった答えの果て、生まれた衝動は飢餓。
「ひとつになってしまえば、私の傍からいなくなってしまう事はないでしょう?」
足下に転がる死体は、少しだけ面影が似ていた。彼と。
「そうすれば、あのひとはずっと私と一緒。それこそ――」
口元を彩る紅。血に滴るは涙か、鮮血か。
やがて彼女の欲するものは知れる。即ち、“不確定な切り札”。
食べる。その行為は、古くから最高位の自己同一化である。相手の何もかもを取り込んで、己とひとつとする。
「…ただ、構わないようにも思う」
ふたりの間には、淡い感情があった。まだ恋とも呼べないほどの。
彼は天秤。心に惑い多きが故に確固たる力は備えず、心揺れるが故に決して希望を捨てられない。故に、不確定。
「彼女がそんなに望むなら。望まれてるなら。俺は――」
柳が雪に折れぬように。それは弱さであると同時に強さである。
「元に戻せるかもしれない、って言ったら?」
差し出された希望。レネゲイドを研究する者は数多い。だが彼女に勝る者はまずいない。
「幸運にも、というべきかしらね。この数ヶ月で、あの子のデータなら揃っているの」
それでも確率は高くなかった。ジャームを殺さずに生け捕るという困難は果てしなかった。
「助言をひとつ。ふたりをできるだけ接触させない事。侵蝕と衝動がない交ぜになって、どうなるか予想もつかないわ」
“紫紺の華”。彼女は艶やかな禁断の果実を実らせる。
「悪いけどね、焼き払うよ」
苦悩の果てに出されたのは、けれどUGNという一組織の回答に過ぎない。
「あたしはこの街が好き。誰かひとりの為に皆を踏み躙ろうっていうなら、あたしはそいつを許さない」
守るものがあるものは強い。その言葉を誰よりも体現するのが彼女だった。
――“気高き守護者”。
「…恨んでくれていい」
守る為に切り捨てる。吐き捨てたのは、苦渋の言葉。
「相手は無辜を害するもの。ならば、為すべきは決まっている」
徒手空拳。心に燃える誇り以外は何ひとつ持たずに彼は立つ。
「だが会いたいという望みは誰のものだ。それは本当に衝動に突き動かされてのものなのか」
いつものくたびれた革靴によれたコート。帽子を目深に押し下げて、夜にひとり、彼は呟く。
「人を想うという心は、それこそ人のものではないのか」
“錆ついた刃”。それは自ら錆びた刃である。誰も傷つけぬように。
「作戦行動は停止だ。あれは悉くを見抜いてつけこんでくる。味方の数が増えれば増えるほど、心の死角もまた増える」
“完全なる使徒”は見切りをつける。いくら抗レネゲイド装備の部隊を運用しても、彼女には届かない。
「誘い出して、少数精鋭で仕留める。幸い、餌になるものは判っているからね」
自ら銃を手に取り、しかし完全をうたわれる彼にも欠点はある。理解の及ばないものがある。
「恋? 恋情ゆえの行動だと? まさか。それは感傷だよ。肉体が、ただ妄念に引き摺られているだけだ」
ジャームとは即ち、単一の欲動に突き動かされる存在である。もう決して後戻りできない存在である。
283 名前: DXシナリオプロット [sage] 投稿日: 2005/07/13(水) 22:43:52 ID:qkhn+Kjk
幾多の死の果て。停止した世界の中心で、ふたりは出会う。
「私と――」
そっと微笑んで、彼女は彼に手を伸ばす。
「一緒になってください」
伸べかけた彼の手が、中途で止まった。
「ごめん」
ゆっくりと、腕が凶器へと変じていく。獣のそれへと変じていく。
好きでした。言い出せなかったけれど、ずっと。
大好きです。今だって。
だから。
――あなたの手で、終わらせて。
獣が走る。咆哮は、まるで現実の理不尽に泣き喚くようだった。
彼女は目を閉じる。まるで恋人を迎えるかのように手を広げて。
そして。
「俺が…俺が君を殺せるわけ、ないじゃないか」
DX2nd “死がふたりを分かつまで”
それはいびつで不器用で、けれど確かな恋のうた。
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