いつも そばに いるよ 

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 数ヶ月前。UGN支部の長を務めていた彼女は、帰途にFHの襲撃を受けた。 
 たまたま駆けつけたUGNイリーガルによって救い出されるも、手酷い傷を受けた彼女の心は、それ以後自分の殻に閉じ籠もった 
ままだった。ジャーム化の恐れもあり、体よく言うならば『関連施設に入院する』形となっていた。 
「いなくなってたんです。いつの間にか。意識なんてずっとないままだったのに」 
 そうして彼女は彷徨う。ただひとつの想いで。 
 その戦略眼と戦局分析能力。超高密度の情報能力に拠って、彼女はこう呼ばれていた。“水晶の瞳”、と。 

「嫌われてしまったから。でも、それでも」 
 育まれてしまった感情。ひとり決めに思い込んでしまった答えの果て、生まれた衝動は飢餓。  
「ひとつになってしまえば、私の傍からいなくなってしまう事はないでしょう?」 
 足下に転がる死体は、少しだけ面影が似ていた。彼と。 
「そうすれば、あのひとはずっと私と一緒。それこそ――」 
 口元を彩る紅。血に滴るは涙か、鮮血か。 

 やがて彼女の欲するものは知れる。即ち、“不確定な切り札”。 
 食べる。その行為は、古くから最高位の自己同一化である。相手の何もかもを取り込んで、己とひとつとする。 
「…ただ、構わないようにも思う」 
 ふたりの間には、淡い感情があった。まだ恋とも呼べないほどの。 
 彼は天秤。心に惑い多きが故に確固たる力は備えず、心揺れるが故に決して希望を捨てられない。故に、不確定。 
「彼女がそんなに望むなら。望まれてるなら。俺は――」 
 柳が雪に折れぬように。それは弱さであると同時に強さである。 

「元に戻せるかもしれない、って言ったら?」 
 差し出された希望。レネゲイドを研究する者は数多い。だが彼女に勝る者はまずいない。 
「幸運にも、というべきかしらね。この数ヶ月で、あの子のデータなら揃っているの」 
 それでも確率は高くなかった。ジャームを殺さずに生け捕るという困難は果てしなかった。 
「助言をひとつ。ふたりをできるだけ接触させない事。侵蝕と衝動がない交ぜになって、どうなるか予想もつかないわ」 
“紫紺の華”。彼女は艶やかな禁断の果実を実らせる。 

「悪いけどね、焼き払うよ」 
 苦悩の果てに出されたのは、けれどUGNという一組織の回答に過ぎない。 
「あたしはこの街が好き。誰かひとりの為に皆を踏み躙ろうっていうなら、あたしはそいつを許さない」 
 守るものがあるものは強い。その言葉を誰よりも体現するのが彼女だった。 
 ――“気高き守護者”。 
「…恨んでくれていい」 
 守る為に切り捨てる。吐き捨てたのは、苦渋の言葉。 

「相手は無辜を害するもの。ならば、為すべきは決まっている」 
 徒手空拳。心に燃える誇り以外は何ひとつ持たずに彼は立つ。 
「だが会いたいという望みは誰のものだ。それは本当に衝動に突き動かされてのものなのか」 
 いつものくたびれた革靴によれたコート。帽子を目深に押し下げて、夜にひとり、彼は呟く。 
「人を想うという心は、それこそ人のものではないのか」 
“錆ついた刃”。それは自ら錆びた刃である。誰も傷つけぬように。 

「作戦行動は停止だ。あれは悉くを見抜いてつけこんでくる。味方の数が増えれば増えるほど、心の死角もまた増える」 
“完全なる使徒”は見切りをつける。いくら抗レネゲイド装備の部隊を運用しても、彼女には届かない。 
「誘い出して、少数精鋭で仕留める。幸い、餌になるものは判っているからね」 
 自ら銃を手に取り、しかし完全をうたわれる彼にも欠点はある。理解の及ばないものがある。 
「恋? 恋情ゆえの行動だと? まさか。それは感傷だよ。肉体が、ただ妄念に引き摺られているだけだ」 
 ジャームとは即ち、単一の欲動に突き動かされる存在である。もう決して後戻りできない存在である。 
283 名前: DXシナリオプロット [sage] 投稿日: 2005/07/13(水) 22:43:52 ID:qkhn+Kjk
 幾多の死の果て。停止した世界の中心で、ふたりは出会う。 
「私と――」 
 そっと微笑んで、彼女は彼に手を伸ばす。 
「一緒になってください」 
 伸べかけた彼の手が、中途で止まった。 
「ごめん」 
 ゆっくりと、腕が凶器へと変じていく。獣のそれへと変じていく。 

 好きでした。言い出せなかったけれど、ずっと。 
 大好きです。今だって。 
 だから。 
 ――あなたの手で、終わらせて。 

 獣が走る。咆哮は、まるで現実の理不尽に泣き喚くようだった。 
 彼女は目を閉じる。まるで恋人を迎えるかのように手を広げて。 
 そして。 
「俺が…俺が君を殺せるわけ、ないじゃないか」 


 DX2nd “死がふたりを分かつまで” 

 それはいびつで不器用で、けれど確かな恋のうた。 
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