「――強行偵察小隊より入電! 敵、増援部隊と接触。コマンダー級1、ソル 
ジャー級1、トルーパー級多数。救援を求めています」 
「第04スコードロン、ブルー、ゴールド各小隊は出撃準備が整い次第カタパ 
ルトへ移動」 
「ホワイト01よりブリッジへ、全騎発進準備完了」 
「了解。各騎、順次発進してください」 
「ホワイト02発進!!」 

―〜―〜― 

「はううっ!? みなさん、あたしの言うこと聞いてくださあいっ!!」 
 あーもーうるせーキンキン響く! このソプラノは耳に痛い。いや比喩的な 
意味でなく物理的に。 
 学徒出陣のガキども連れて、今日は楽しい艦外遠足。MISTはコマンダー 
級イヴィルエッグ1体、あとはトルーパー級アタッカー、ハーミット、メイフ 
ライがちょこちょこ。外装の剥げ方からして敗残兵って感じの連中で、レベル 
的にも本来ならあっさり蹴散らすべきザコである。 
 ここ、マウス地区はとっくの昔に放棄された市街であり、バハムートの進路 
上からは大きく外れている。放っておいても構わないけど、敵本隊と合流して 
再戦を期されては厄介だから一応掃討しておこう、ぐらいの考えで、竜士たる 
幻操士のナギを小隊長として、俺を含む竜士補4人が戦場に投入された。 
 でもって。 
 状況は最悪。僕に近寄るなーって感じでトルーパー相手に当たらぬ剣を滅茶 
苦茶に振り回している大騎士。位置取りが悪いせいで三方を包囲されて、今は 
逃げるのに精一杯の天剣士。魔導騎士に至っては、中途半端な機体性能を顧み 
ず敵主戦力たるコマンダーに単騎で突っ込んで、孤立無援の状態だ。アホかこ 
いつら。 
 それでも、ナギの指示に応じて動いてさえいれば、もう少しマトモな戦いに 
なったはずだ。指揮官の命令を聞く気がないのか。聞いても従うだけの能力が 
ないのか。 
「ブルー07よりブルー03へ、今から《テレポート》移動させますから、ブ 
ルー05の援護を……ブルー03。ブルー03? 聞こえてますか? 応答し 
てくださいぃ!」 
 聞こえてねえ。絶対に聞こえてねえよ、あの大騎士。自分のことでいっぱい 
いっぱいに決まってる。アコガレてやまない年上のおねーさま、カッコ笑い、 
カッコ閉じる、に折角お声を掛けていただいてるのに、それにすら反応できな 
いほど、奴は頭がパニクっているに違いない。 
「ブルー07よりブルー02へ。ブルー04と位置を交替し、コマンダーの狙 
撃に集中してください」 

 ナギから俺に指示が飛ぶ。天剣士の代わりに機甲士が最前線に出て、トルー 
パーどもの包囲攻撃を甘受しつつコマンダーを狙撃しろってことだ。危険度の 
高い作戦だが、それも仕方のないほど魔導騎士の惨状は切迫していた。 
「ブルー02よりブルー07へ。俺を殺す気か」 
 ニヤリと笑ってそう返すと、 
「ブルー07よりブルー02へ。武運長久をお祈りします」 
 信頼を込めて笑っているのがわかる声。 
 任せろ、ナギ。だから俺のことよりも、俺がコマンダーを撃ち砕くまでに魔 
導騎士が死なないことを祈ってやっててくれ。 

―〜―〜― 

 バハムートに戻って、俺はとりあえず一番手近な場所にいた大騎士のガキを 
ブン殴った。 
 エクスタリアの名家のぼっちゃん。モヤシが服着て歩いているようなヒョロ 
ヒョロ坊主は、おいおい、そんなに力を入れて殴った憶えはねーぞ、ってぐら 
い大げさにブッ飛んで転んだ。……まさかわざとじゃねえだろうな。 
 魔導騎士のじょうちゃんが大騎士に駆け寄って抱き起こし、非難がましい目 
で俺の方をキッと睨む。……なるほど、わざとかも知れねえ。母性本能とやら 
を上手くくすぐって、女を自分の楯にするために。ナイス戦術だぼっちゃん。 
俺には絶対マネできねえよ。 
「殴ることないじゃないですか!」 
 ぼっちゃん、ではなくじょうちゃんの方が俺に喰ってかかる。 
「蹴飛ばした方がよかったか?」 
「そうじゃなくて! どうしてこんな酷いことするんですか!」 
「酷いのはてめえらだろうが、この能無し。俺も傭兵やって長いが、こんーな 
マヌケな戦果しか上げられなかったのは初めてだ、恥を知れ」 
「あ、あのっ、でもっ、」 
 俺と魔導騎士の口論をおろおろ見守っていた天剣士のチビが、必死の面持ち 
で言葉を継いだ。 
「MISTも、倒して、全員、無事に、生きて、帰れたんです、だから」 
「だから何だ」 
 俺はあっさり切り捨てる。 
「そーゆー台詞はな、自分もきっちり戦ったときにだけ言えるもんなんだよっ。 
俺とナギの二人におんぶに抱っこで、偉そうな口を叩くな」 
「あ……ぅ…………」 
 もごもごと口ごもるカレドアのチビ娘の代わりに、アルトクランのおじょう 
ちゃんが気張って言った。 
「あたし達、ドラゴンアームズに乗って間もないんですよ!?」 
「その言い訳を、敵が聞いてくれるってのか。手加減してもらえるってのかよ」 
 おじょうちゃんはぐっと唇を噛む。悔しい、っていうのは、まだしも見所の 
ある証拠だ。 

 ところでおぼっちゃんは……半泣き顔で俯いているだけだ。帰れ、てめえ。 
「僕、は」 
 お、何か言うか。 
「僕はもう、ドラゴンアームズに……乗りたく、ない」 
 カタパルトから外へ蹴り落としてやろうかと本気で思った。 
 俺の視界の隅に、くたくたにくたびれて深い深い溜息をつくナギの姿が映っ 
た。小隊長であるナギは、ナイチンゲールから降りぬ間に、通信機を介して中 
隊長からありがた〜いお説教、てか嫌味を喰らったのだろう。 
 その顔が、ガキどもを見た途端、パッと明るい笑顔になった。疲労をおして 
の作り笑顔だ、ったく、無理しやがって。たまにはやつあたり、てかモロあた 
り? でもしてやれ、こいつらに。 
「みなさ〜ん、お疲れ様でしたあ」 
 小走りに近寄ってくる。 
 大騎士のガキが慌てて居住まいを正した。惚れた女の前で見栄を張るだけの 
気力は、まだ残っているらしい。ちょっと見直した。 
「じゃ、ここで簡単に反省会して、解散しましょーか」 
 反省会。お人好しのナギにかかると、反省会は褒め言葉の嵐となる。このど 
うしようもねえガキどもにさえ、なにがしか美点を見つけ出してとことん褒め 
ちぎるのだ。あれが凄かった、これが良かった、上手い、素晴らしい、次回も 
力を合わせて頑張りましょう。 
 大騎士は、憧憬と思慕とが綯い交ぜの眼差しで、背景にハートマークをぷわ 
ぷわ浮かべながらナギおねーさまをボーッと眺めている。……けどお前、ナギ 
の話は全く聞いてねえだろ。魔導騎士と天剣士も、ようやくホッとした、とい 
う顔で、ナギの言葉に頷いている。 
 ナギが他人をけなしたところを俺は今まで見たことがない。だから代わりに 
俺がこいつらを罵るのだ。あれもできてねえ、これもなっちゃいねえ、無能、 
低能、てめえら全員肥溜めにアタマ突っ込んで死ね! 

―〜―〜― 

「褒めてもダメ、けなしてもダメ。は〜あ、こんなとき団長ならどうなさいま 
すかねえ」 
「放っとくんじゃねえ? てめーでてめーのケツが拭けるようになるまで、さ。 
自覚のねえ奴に口で何言ったって無駄なんだからよ」 
 テラス、と一般に称されるバハムートの物見台。艦外の景色が一番よく見え 
るから、遥か地平線を眺めて気晴らしをしたり、廃墟と化した街を見下ろし鬱 
になったりするために使われる。ついでに、恋人達が逢い引きするのにも使わ 
れる。隅っこに座り込んでしまえば、通路は勿論、隣のテラスからも死角にな 
るので、たまーにキミョーに甲高い声が風に乗って聞こえてきたりもする。 
 もっとたまーに、野太い男の呻きが聞こえることもあって、すっげー怖かっ 
たりもする。 
 ナギは気分転換に来た。俺はあわよくばの下心アリでナギについて来た。 

 夕焼け。橙色が少しずつ濃くなっていく。夜は近い。 
 ところでナギが話題にしているのは、あの大騎士のことである。散々けなし 
まくっておいてアレだが、魔導騎士と天剣士に関しては、俺はあんまり心配し 
ていない。 
『あたしだって戦える!! みんなの仇を……とらせて!!』 
 初陣直前、俺に向かってそう叫んだおじょうちゃんも。 
『お兄ちゃん……わたくしを守ってください!!』 
 敵に対峙し、常にその一言を呟くチビ娘も。 
 二人とも、戦う理由が強くある。だから今までナギの褒めた長所が、ちょっ 
とずつ、カメの歩みに等しいものの、伸びていっている。俺の怒鳴った短所が、 
僅かながら、蝸牛の歩みにも劣れど、解消されていっている。 
 が、問題はあの大騎士のガキ。聞くところによれば、奴は整備士志望だった 
のに、大騎士だった父親に言われて、仕方なくドラゴンアームズに乗っている 
のだという。大騎士不足の昨今、才能があると軍にバレた時点で否応無くドラ 
ゴンアームズに乗せられるご時世だ、親の理解があるならむしろ幸せだろうと 
俺などは思うのだが。 
「なんつーか、奴もなあ。筋はいいんだ、あとは精神的なモンだな。一つキッ 
カケさえありゃあ、絶対に大化けするぜ」 
「そんなこと言って、ただ待ってるだけなんて……。あの子が大化けするまで 
に、最悪の事態が起きないという保証はないんですよ?」 
 再起不能の怪我とか。……死、とか。あいつだけはでない、俺達や他の連中 
にもその禍は及びかねない。 
「怖い、嫌だ、死にたくない、としか思ってないんですよ、あの子は」 
 ナギがぼやく。 
「死にたくないのは誰だって同じです。情けない、なんて言ったら可哀相です 
けど、勝ちたいって、せめて生き残りたいって思ってくれないと」 
 消極、受動の思いと、積極、能動の思いと。どちらが本当に死の確率を下げ 
るのか、あのガキは全然わかっちゃいないのだ。 
「お陰で今日もまたあなたに無体を強いることになって……このまんまじゃ、 
命が幾つ在っても足りませんよ」 
「何なら奴に色仕掛けでもカマしてみるか? 今度の戦い、頑張ってくれたら 
おねーさんをあ・げ・る、ウッフ〜ン、みたいな?」 
「…………………………」 
「真剣に悩むようなことかっ!?」 
 マジで受け取りかねないナギの頭を、俺は片掌で掴んでぐりぐり揺さぶった。 
「でもほら、誰か好きな女の子を護るために、って、男の子の戦う理由の最た 
るものじゃないですか?」 
「だからってお前のカラダをエサにしてどうする」 
「はあ!? そんなことするわけないでしょう!?」 
 大声で呆れられた。 

「そうじゃなくて、ほら、魔導騎士の彼女が、大騎士のあの子のこと、ちょっ 
と気になる感じだったから、二人が上手くいってくれたらな〜、って」 
 ……報われないな、大騎士のガキ。憧れのおねーさまが、お前に恋のお相手 
を探してくださるとよ、ケッケッケ。 
 尤も、奴の恋路は端っから報われやしないのだ。ナギの瞳に映っているのは 
顔も知れない“憧れの君”。足掛け15年の恋を貫く乙女に、15歳のガキが 
何をアプローチしたって届きはすまい。 
 齢29(もーすぐ30だ畜生)の俺だって、苦労しているのだから。 

―〜―〜― 

 俺とナギはナーガロンドの所属だ。つまり俺達はドラゴンフォースに雇われ 
た傭兵というわけ。一ヶ月前、ガルテン・ゼンバッハ団長の命令で、ナイチン 
ゲールに5体のドラゴンアームズを乗せて、バハムートに合流した。 
 MISTの勢力圏を突っ切って全員が無事だったのは、竜翔騎ナイチンゲー 
ルを駆る幻操士ナギの力によるところが大きかった。俺も機甲士として、その 
戦闘能力が人後に落ちない自信はある、だが戦局全体を見通し、全騎の性能、 
現状を把握し、与えられた条件下で最善の一手を打つ能力は、悔しいがこいつ 
に敵うとは思えない。 
 誰が呼んだか美少女天才指揮官。20歳にもなって何が美少女だ、と俺など 
は思うが、でっかい丸眼鏡の童顔は、まあ、美少女と称して差し支えないレベ 
ルであると認めるに吝かではない。 
『もっと……もっと強えやつはいねえのかよ!』 
 強いこと、ただそれだけに価値を置き、気が付くと俺は家を飛び出てナーガ 
ロンドに入団していた。初等教育代わりに戦闘訓練を受けて、気に入らない者 
を力でねじふせることに、むしろ快感を覚えていた。 
 金のため。食い詰めて。強さを求め。ただ死に場所を探して。ナーガロンド 
に集まる連中は、出自は勿論、その集まる理由もバラバラであったが、それら 
の多くは俺にも理解可能だった。 
 唯一、不可解極まりない理由で入団してきたバカ。そいつが今、俺の隣にい 
るこいつである。ナギ15歳。俺25歳のときだ。 
 ナーガロンドにいるはずの“憧れの君”に会うため。なんつうふざけた理由 
かと思った。生っ白い肌のお嬢。3日と保たずに逃げ出すに違いないと鼻にも 
引っかけなかったが。 
 驚いた。3日どころか3ヶ月も経たないうちに、こいつは欠かすことのでき 
ない主要メンバーと化していた。基本に忠実、それでいて発想の柔軟な戦術で、 
任務達成率を40%も引き上げたのだ。古参の中で一番アタマの固いおっさん 
さえ、舌を巻かずにはいられなかった。天才、ではあるのだろう、が、それは 
不断の努力に裏付けられての結果だとも知った。 

 “憧れの君”は、5歳のときに自分を助けてくれた人だとナギは言う。顔も 
声も憶えていないのだけれど、ナーガロンドの古ぼけた階級章を身に着けてい 
たことはよく憶えていると。入団以来、心当たりはありませんか、と誰しもに 
訊いて回っていた。勿論、俺にも。そしてことごとくから芳しい答えが得られ 
ず、いつもがっかりして、それでも挫けなかった。ナーガロンドは傭兵団。ま 
だ会えていない者も数多い。だから捜していればいつか、いつかきっと、と、 
今日も彼女は希望に燃えている。 
 いや会えねーから。絶対に会えねーから。 
 だってそれ、……俺だもんよ。 
 15のときだ。俺より弱い連中相手の訓練なんぞ、かったるくてやってられ 
るか、と一人サボって街へ出た。たまたま、暴走した重機が建物に突っ込み、 
ひらひらの服を着た小さい女の子がそれに巻き込まれた場面に出会し、俺は咄 
嗟に現場に駆け寄っていた。幸運にも、瓦礫が上手く組み合わさって、女の子 
を護るドームとなっており、重傷ではあったが、その子の命に別状はなさそう 
だった。どうせ暇だったので、俺は瓦礫をひっくり返し、その子を助け出して 
やった。そういう次第だ。 
 最初に訊かれたときは、本気で憶えていなかった。件の街に足を向ける機会 
があり、そこでようやく思い出した。 
 今更「やっぱそれ俺でしたー」なんて言えたもんじゃない、恥ずかしいにも 
程がある。 
 それにこいつは俺を、てか“憧れの君”を非常に美化している。強いに違い 
ない、優しいに違いない、カッコいいに違いない、……エトセトラエトセトラ。 
“憧れの君”の正体を知れば、きっとがっかりする。泣くかも知れん。 
 だから教えないことにした。墓場まで、その秘密を持っていくことにした。 
俺だけが知っている真相、というのも愉快であるし。 
 何より。 
 15の頃の俺じゃない。“憧れの君”の俺じゃない。 
 今の俺に。この俺に。惚れさせてみたいと思ったのだ。 
 惚れられたいと思ったのだ。誰あろう俺が。こいつに、ナギに。 

―〜―〜― 

 ちらり、視界の隅に人影が見えた。ドラゴンフォースのジャケット。俺達が 
着ているナーガロンドの野戦服とは色も形も違う。ジャケットの下には、エク 
スタリアの貴族階級が好んで着るタイプの民族的な衣服。 
 テラスに頬杖をついて本日何度目かの溜息をついているナギは、奴に気付い 
ていない。奴の方がこちらに気付いて、慌てて姿を隠した。そう、通路へ戻っ 
ていったのではなく、こちらと通路との境にある柱の陰に隠れたのだ。 
 へえ、立ち聞き盗み見の構えかよ。俺は唇の端を歪めて、……見せつけるよ 
うな腕の動きで、ナギの肩を抱き、その身体をグッと引き寄せた。 
「はい?」 
 きょとんとナギが俺を見上げる。何の用ですかと言いたげに。 
「なあ。……まだ、俺に抱かれる気、ねえ?」 
 彼女の頬が朱に染まったのは、夕日のせいではない。 
「もう、またその話ですか?」 
「またその話」 
 拗ねたように言う彼女の耳に、唇が触れんばかりの距離で低く囁きかける。 
「いい加減に抱かせろよ」 
「ヤですよー」 
 つーん、わざとらしくそっぽを向く。 
 何百度目かの口説き文句。何百度目かの拒絶。 
 俺達の会話は、柱のある場所にまでは届くまい。だが、雰囲気は伝わるだろ 
う。身を寄せ触れ合う、この至近距離を許し合える仲であると、如何なガキで 
もわかるだろう。 
 実のところは友達以上、恋人未満、複雑微妙な関係なのだが。 
「そんなに“憧れの君”とやらがいいのか? そんなに、そいつに抱かれたい 
のか?」 
「だっ…………抱かれ、たいとか、そんなわけないじゃないですかっ」 
 じたばた、耳まで真っ赤っ赤。こいつの頭から白い湯気が立ち昇っていたと 
しても、俺は驚かない。 
「そんな、そんなこと、あったらいいなーなんて、そりゃあ思わないでもない 
ですけど……」 
 指先を合わせてもじもじと。おいおい、手まで赤くねえかお前。何を想像、 
てか妄想してやがるんだか。 
「あの人にはもう、素敵な人がいるに決まってますもの」 
 素敵な人は、いる。まだ片想いだけどな。 
「あたしなんて、歯牙にも掛けてもらえませんよ」 
 歯牙に掛けるどころか、毒牙に掛けようとしている。 
「それでも、会いたいんです。会って、あのとき言えなかったお礼を、感謝の 
気持ちをちゃんと伝えたいんです」 
 祈るように、夢見るように。

 妬けるよなあ、畜生。30の大台に乗る前にこいつを口説き落としたかった 
けれど、やれやれ、まだまだ長期戦になりそうだ。 
 ……っと、そうだ。 
「んじゃお前、俺と賭でもしねえ?」 
「賭?」 
 何かにつけて賭けたがるのは、俺のクセである。なにも賭場に出掛けるわけ 
じゃない。酒場のケンカ、どっちが勝ったら幾ら払え(そして賭けた方に加勢 
して相手を殴りに行くのだ)とか、生きて帰れたら飯をおごるとか、そういう 
他愛もない賭。発奮するのに丁度いい賭。 
「次の戦い、あのガキが一人でコマンダー級を倒せたら。お前、俺に抱かれろ」 
「へ!?」 
 すっとんきょう。まんまる目玉。 
「い、幾ら何でもそれは無理ですよ、精々トルーパー級1グループ、……いえ、 
3……2匹……」 
 大騎士のぼっちゃん。アコガレのおねーさまは全くお前を信じてないぞ。 
「この俺がバックにいて、トルーパー2匹ってこたぁないだろう?」 
「背伸びしすぎても転んで怪我をしますよ、あの子はまだ……」 
「ならソルジャー1匹か、トルーパー1グループ。これ以上は負からんぜ」 
「それだったら……って、何でそんな賭なんかしなくちゃなんないんです!」 
「あのガキに発破をかけてやるって言ってんだよ。奴がちゃんと戦えるように 
なりゃ、お前だって嬉しいだろ?」 
「それは……そうですけども…………」 
 恨みがましげにじ〜っと上目遣いで。 
「あたし、あの子を応援していいのか悪いのか、フクザツな気分です……」 
「応援してやれ。俺のためにも」 
 ナギの前髪を掻き上げて、白いおでこにキスを落とす。 
「……んもう」 
 しょうがないなあって感じで、だけどこいつは嫌がらない。 
 俺の故郷じゃ軽いものでもキスは性愛の意味だ。こいつの故郷じゃ触れ合う 
程度は親愛、友愛の意味だ。わかっていて、俺はナギにキスをする。俺の所有 
を主張する、見えない印を付ける気持ちで。 
 親愛のキスを受け入れるほど、心を許してくれているのは嬉しい。心ついで 
に、身体も許してくんねえもんかな。できれば全部、さ。 
「そろそろ冷えてきたな。戻るか」 
「そうですね」 
 蒼みを帯びてきた空に、星が目立ち始めた。俺達はテラスから通路へ移り、 
「っと。忘れモンだ。先に宿舎に帰っててくれ」 
「え?」 
 訝るナギを置いて、俺は再びテラスの方へと足を向けた。 

 俺が戻ってきたもんで、柱の陰から出ようとしていた奴が、慌ててまた同じ 
所に隠れるのが見えた。 
 ドガッ! 柱のこちら側を、靴の裏で蹴りつける俺。柱の向こう側で、ビク 
リと身を竦める気配。 
「こそこそ覗き見してんじゃねえよ、この卑怯モンが」 
 返事はない。出ても来ない。上等だ。 
「バレてねえとでも思ってやがったのか? エクスタリアの貴族のぼっちゃん」 
 ややあって、覚悟を決めたみたいに、大騎士のガキが姿を現した。噛み締め 
た唇。屈辱に震える身体。ぎゅっと握り拳を胸に当て、そして俺を睨みつける 
憎悪の、否、嫉妬の眼。 
 いいねえいいねえ、最高だ。そうこなくては、面白くない。 
「そんなに妬ましいか、俺とナギとので・ぇ・と、が」 
「あなたは、ナギさんと、……つきあっているんですか」 
 つきあってねえ。フラレ街道まっしぐら、連戦惨敗、未だ連敗記録更新中だ。 
勿論そんな実情は、おくびにも出さないでおくが。 
「そうだ、と言ったら?」 
「あ、あなたみたいに乱暴な人、ナギさんには相応しくないっ」 
「へ〜え? だったらナギに相応しいのは、自分の責務もロクに果たせない、 
クソ甘ったれたカワイソーなボクちゃんってわけだ?」 
「そんなことっ!」 
「そんなことないとでも? は、プライドだけはいっちょまえかよ」 
 俺は鼻先でせせら笑う。嘲弄、軽蔑、ありったけの見くだし。 
「惚れた女の気を引きたけりゃあ、女が喜ぶことの一つもしてみせろってんだ。 
差し当たってはソルジャー級の1匹でも、って、トルーパー1匹でも無理か、 
今日みたいに無様な戦いっぷりじゃあな」 
「僕は! 僕は好きでドラゴンアームズに乗っているわけじゃない! 好きで 
戦争なんか……!」 
「そうかい、それならあいつに頼め。僕を護ってください、僕の代わりに戦っ 
てください、僕が死なないためにあなたが最前線に出てください、ってな」 
「あ、あなたなんかに! あなたなんかに何がわかるっていうんですか!」 
「だったらお前は何がわかってる! あいつの何がわかってるんだよ!?」 
 殴ろうと振り上げた手。ひっ、と息を呑んで縮こまる大騎士。 
 が、次の瞬間。 
 奴はキッと俺に目を向けた。 
 殴られる瞬間も、最後まで視線を逸らさなかった。 
 ブッ倒されて、それでもすぐに上半身は起こす。切れた唇。血を拭う拳。俺 
を睨み上げる、眼。 
 憎悪よりも。嫉妬よりも。それは、敵愾心。 
「てめえ一人も護り切れねえクソガキが、女に色目使ってんじゃねえ。とっと 
と実家に走って帰って、母ちゃんのスカートん中にでも潜り込んでな」 

 ありきたりの罵詈雑言を吐き捨てて、俺は兵舎へ足を向けた。 
「あなたには」 
 後ろで呟く声が聞こえた。 
「あなたにだけは、負けたく、ない」 

―〜―〜― 

 化けも化けたり、ぼっちゃん大化け。トルーパー級1グループ、ソルジャー 
級1匹、加えてコマンダー級1匹が大騎士のガキの大手柄。アタッカー、グー 
ン、イヴィルエッグという低レベルの奴だが、それでも一昨日の情けねえ戦果 
と比べたら月とスッポンである。 
 バハムートに帰還してすぐ、魔導騎士のじょうちゃんと天剣士のチビ娘が大 
騎士を囲み、飛び上がっての大喜びだ。俺も、まあ言いたいことは十や二十で 
なかったが、今日ばかりは褒めてやることにした。 
「やるじゃねえか」 
 俺がニヤリと笑うと、大騎士のガキもニヤリと笑い返した。負けん気でいっ 
ぱいの笑いだ。もうおぼっちゃんとは呼べねえなと思った。 
「みなさ〜ん、お疲れ様でしたあ」 
 小走りに近寄ってくるナギも、スキップせんばかりの勢いだ。 
「じゃ、ここで簡単に反省会して、解散しましょーか」 
 そうしていつもにも増したる褒め言葉の嵐。俺が怒鳴らなかったものだから、 
反省会はあっという間に終わった。 
 小隊長が解散を宣言したとき、大騎士のガキはナギに何かを言いかけたが、 
果たせず、今日はお祝いとはしゃぐ魔導騎士のじょうちゃんと天剣士のチビ娘 
とに左右から腕を取られて引きずられていった。早速両手に花とはね。いやあ 
羨ましい羨ましい。 
 ま、俺は高嶺の花が1輪あればそれでいいけど。 
 中隊長に口頭報告を済ませたあと、プラットホームから出ながら、ナギが俺 
に尋ねた。 
「一体、あの子に何て言ってあげたんです?」 
「別に。ただ頑張れって言っただけさ」 
「嘘ばっかり」 
「そんなことより、賭は俺の勝ちでいいんだな?」 
 う、と気おされた顔。でも。 
「も、勿論ですよ。賭はあなたの勝ちです」 
「そうかい。んじゃあ、着替えたらいつものところで待ち合わせだ」 
 俺達は一旦男女更衣室へと分かれた。 
 シャワールーム、頭からザブザブ水を浴びて簡単に汗を流す。 
 ふう、と我知らず溜息が漏れた。 
 わかっちゃいるんだ。こんな阿呆な賭であいつが身体を許すなんて、心から 
俺に抱かれる気になるなんて、俺も本気で思ってはいない。 
 無理矢理にでも抱きたい。それと同じぐらい、あいつを傷つけたくない。 

 あいつは律儀な性格だ、約束は守る。だから多分、ホテルまではついてくる 
と思う。だけれど。 
 最後の最後で、やっぱり嫌だと拒むに決まっている。ひょっとしたら泣かれ 
るかも知れない。たまんねえ結末だ。俺自身、きっと傷つく。 
 冗談に紛らせよう。笑い話にしちまおう。もう一度、腹の底から溜息をつい 
て、俺はシャワーの栓をひねって閉じた。 

―〜―〜― 

 兵舎へ続く、通路の出口。いつものところで、あいつはもう待っていた。 
「珍しいな、お前の方が先に来てるたあ」 
「どうせホテルで浴びると思って、シャワーは簡単に済ませたんです」 
 何でもなさそうに、言う。俺は慌てた。 
「おいおい、ホントにヤる気なのか」 
「しないんですか?」 
 じっ、と俺を見詰める瞳。 
 無理をしている、わけではなさそうだけれど。 
「ありゃ冗談だよ、代わりに飯でもおごれや」 
「じゃあ、ホテルでルームサービスを取るということで」 
 女性兵士の間で評判がいいというファッションホテルを、ナギは予め調べて 
あったそうだ。焦る俺を先導するようにして、とっとと中に入り、適当に部屋 
を決めて、さっさと階段を上がって、躊躇い無くドアを開けた。 
「さ、どうぞ」 
「……はあ」 
 あぜんぼーぜん。 
 女に人気があるってことだけはあって、俺が知ってるどのホテルより、そこ 
は小綺麗で品がよかった。ドアを開けて玄関にまたドア。上がり込むと正面が 
ベッドルーム、左手がバスルーム。ベッドルームとバスルームとの間の壁がガ 
ラス張り、なんてこともない。ベッドの横にでっかい鏡、なんて物もない。窓 
にはレースのカーテン。壁紙は淡いパステルカラー。暖色系の柔らかい絨毯。 
清潔感あふれるシーツ。 
 なんかもう、勘弁してくれって感じだ。小汚い安宿の方が、俺はまだしも心 
が落ち着く。 
 我に返ったのは、ナギがバスルームに入ってからだった。 
 本当にヤる気だっていうのならありがたい。棚から牡丹餅、美味しくいただ 
く気は満々だ。だがしかし。信じられねえ。マジかよ。何かの間違いじゃねえ 
のかよ。 
 覚悟だけは決めておく。いざとなって、拒まれ泣かれる覚悟を。 
 こんな阿呆な賭を、言い出したのは俺なのだから。 

 ヘアドライヤーのガーガーいう音が消えて、 
「お先でした」 
 脱衣所と部屋との間の扉が開いた。予想通り、ナギはここへ来たときの服装 
のまま。バスタオル一枚を巻いたきり、とか、備え付けのバスローブに着替え 
て、とか、期待しないではなかったが、やはりそんなことはなかった。 
 交替で、俺がバスルームへ。 
 濡れた床。さっきまであいつがここを使っていたんだなあ、と思わず深呼吸 
する馬鹿な俺。 
 身体を洗って、身繕いをして、その間、あいつは何を考えていたんだろう。 
わかりもしないことが、俺の頭をぐるぐる掻き乱す。無意識のうちに、いつも 
より丁寧に俺は身体を洗っていた。やれやれ、どうせ無駄になるっていうのに。 
 脱衣所に上がって、バスタオルでがしがし頭を拭きながら、備え付けのバス 
ローブと、いつもの野戦服との間で手が揺れる。暫しの逡巡。そして俺は、野 
戦服を手に取った。 
 ベッドルームに続く扉を開ければ、ナギは野戦服姿のままベッドに座ってい 
て。 
 本当に申し訳なさそうに、 
「やっぱり、あの……」 
 と許しを請うように俺を見上げる。 
 俺は平静を装って、 
「んじゃ、ルームサービスでも食って帰るか。お前のおごりで、な」 
 ナギの頭をぐしゃぐしゃ撫でてやる。 
 ……よし、手順としてはこんなとこだろう。脳内シミュレーションを終えて、 
俺は扉を開ける。いざ! 
 って、あれ? 居ねえ? 
 まさか一人で帰ったか? それはそれで安心するようなしないような、いや 
でもしかし、ナギはそんな無責任な奴では。 
 俺は部屋中を目線だけで探して、ようやく、ベッドのふくらみに気がついた。 
全身、掛け布団の中に潜り込んで、人間大の小山がもぞもぞ動いている。 
 びっくりさせてくれるぜ。それにしても意外な展開だな。 
 てかナギの奴、一体何をしてやがる? 疲れたからもう寝まーす、ってわけ 
か? それはそれで俺としちゃあ、……添い寝ぐらいはさせてもらうが。 
 生のオカズが隣に寝ていて、どこまで理性が保つやら自信は無いけどな。 
「おい、ナギ?」 
 ばっ、と掛け布団を剥ぎ取ると。 
「や、ま、まだダメですよう!」 
 …………………………。 
 ナギ、お前さあ。 
 俺に鼻血を噴かす気かっ!? 
 野戦服どころか。バスローブどころか。 

 ベッドに転がった、ナギは完全、素っ裸。 
 正確には、素っ裸の上に艶のある真っ赤なリボン。網に掛かった小鳥みたい 
にぐるぐる巻きの状態で。 
「ちゃんと綺麗に結べなくて……」 
 ロクに身動きが取れないらしい腕と足とで、ナギはなんとか胸を隠し、膝を 
おなかへ引き付ける格好。 
「てか、何でリボンなんだ、おい?」 
 きまり悪げに俺を見上げて言うことには。 
「ラッピング……プレゼントの」 
 今。何て言った? 
「明日でしょう? あなたの誕生日。一日早いけど、賭のこともあったから、 
それで」 
 なんかすっげえ、信じられない言葉ばっかり聞こえてくんだけど。 
「それで、今日、貰ってもらおうと思って」 
 上目遣い。ナギが俺を見詰める。 
「あの、ダメ……、ですか?」 
 掛け布団を剥ぎ取った状態で固まっていた俺は、まだ持っていた掛け布団を 
ぺい! とベッドの下に放り捨てて。 
 ぶっちゃけ、ナギに飛び掛った。 
「え、や、やだっ!?」 
 やだじゃねえ。ベッドに膝で上がり込む。 
「あの、ちょっと、待ってくださいぃ」 
 待てねえ。待てるわけがねえ。身を縮めるナギの身体を軽く突き飛ばして仰 
向けにする。 
「せめて、リボンをほどいてからに」 
 嫌だ。絶対逃がさねえ。肘を突き、ナギの背中と頭の後ろに腕を突っ込んで。 
「お願い、あっ……」 
 抱き締め、口づけを。 
「や……っ、は…………」 
 深い深い、口づけを。 
「……そんな、怒らないでくださいよう……」 
 力が抜けたようにナギが言う。 
「怒ってねえ。怒ってねえけどな」 
 怒るどころか。腹が立つどころか。 
 嬉しい。嬉しい。嬉しい、嬉しい。嬉しくて嬉しくてたまんねえ! 
「この小悪魔。そうまで男を挑発しといて、無事にここから出れると思うな?」 
 爆発寸前、地獄のように熱い何かを身体の中に抱えて、俺こそきっと、悪魔 
のような顔をしているはずだ。 
 怯えたような、とろけたような、潤んだ瞳で彼女は小さく、はい、と頷いた。 

 懇願を無視してリボンを巻いたまま、服を脱ぎ捨てた俺は再びキスを貪る。 
唇で噛み付くように、舌で舐めまわすように、強く、容赦なく、意地汚く。 
 いい匂いがする。それともいい味がするのか? 乳臭いってわけじゃないが、 
なんとなく温めたミルクを連想する匂いで、味で。 
 口元を、俺の唾液でべたべたにされて、 
「なんか、……食べられているみたいです」 
「食ってんだよ」 
 首筋に唇を寄せて、……流石に可哀相だと思って、リボンの隙間、胸のあち 
こちに刻んでいく、俺の所有を主張する、目に見える印。 
「やめてくださいぃ、シャワー浴びるときみんなに見られますう」 
「見せてやれよ」 
 そして自慢してやれよ。男がいますって。 
 自分のことを一番に想ってくれる、いい男がいますって。 
「ダメですっ」 
 身をよじって俺から逃れ、背中を向ける。そういうことなら、俺は後ろから 
手を回して、お前の胸を揉んでやるまでだ。 
「痛い、痛いですよう」 
「嘘つけ、そんなキツくはしちゃいねえ」 
「そうじゃなくて、リボンが……リボンの端が、その…………」 
「リボンの端がこすれて痛いか? ……ここに?」 
「ひうっ!?」 
 ビクッと仰け反る、面白いぐらいの感度。俺が弄った先端は、瞬く間に尖端 
となった。 
「可愛いな、お前」 
 左手を胸に残したまま、右手を胸から臍へ、臍から下肢へ。可愛いお前の中 
でも、きっと一番可愛い尖りに、俺はそろそろと指を伸ばしていく。 
 すっかり濡れきった部分から蜜を奪ってきて、ひだを掻き分け、そこに塗り 
たくる。 
「いや! いや、いやあ!」 
 大きく首を横に振る、その仕草が拒絶に見えないのは何でだろうな? 
「いや……は…………いや、……いや、あ………………」 
 繰り返す言葉が、甘くかすれてくるのは何でだろうな? 
 十の年齢差。俺が25のときこいつは15。俺が15のときこいつは5つ。 
15年前なら、いや5年前でもか、こいつのイヤらしい部分に触れただけで、 
俺は犯罪者確定だ。小さい女の子にイタズラをしているような良心の痛みをも 
俺は楽しみながら、ますます性急にナギの雛尖をくちくちと嬲り、 
「……や、ん……あ……っはぁ」 
 可愛らしくも淫らな喘ぎを快く耳に聴いた。 
 愛撫する手を一旦止めれば、はーはーと、整えようとして失敗している荒い 
呼気。俺の鼓動も激しく乱れて、頭の中でガンガン鳴ってる。 

 もっと奥まで手を突っ込んでやろうとしたが、リボンが絡んでいるので両足 
を広げてやることができない。 
 そこで俺は膝立ちになり、ナギの腰を抱えて、一気に引き上げた。 
「きゃ!?」 
 ナギは上半身、顔から胸をベッドに押し付けられて、俺に向け尻を突き出す 
状態。抵抗しようにもリボンが邪魔でマトモに動けない、文字通りの自縄自縛、 
いや自リボン自縛。 
「や、やだ、こんな格好っ!」 
「言ったろう? ……タダで済むと思うな、って」 
「そん……な」 
 俺の目の前、白い足の間、そこには赤く充血した部分。俺を待ちわびている 
のか? 舌でねっとりと舐め上げれば、枕にくぐもる、喘ぎ混じりの抗議の声。 
「は……恥ずかし……い、ですよう…………」 
「恥ずかしくしてんだよ」 
 俺は笑う。悪魔の笑い。 
「もっともっと、恥ずかしくしてやる」 
 猛り立つ俺のモノを、ナギ自身にこすりつけながら、背中へ覆い被さり、胸 
に手を回す。 
 揉んで。摘んで。転がして。 
「ひ……あは……っ」 
 前後に動く。先端同士が触れ合うように。 
「や、……っ、ああ、ん、あ…………っ」 
 やがて狙いを定めて。 
 俺はお前を打ち壊す。 
「…………………………!」 
 悲鳴は、枕が吸い取った。正確には、ナギが枕を噛み込んで悲鳴を堪えたの 
だ。 
 うあっ…………キツい。リボンで足が閉じてるせいか? 元々こいつが狭い 
のか? 戦闘訓練で、ここらの筋肉も鍛えられているせいか? 何でもいい。 
どうでもいい。ただただ気持ちよくってしょうがねえ。 
 内側の感触を確かめるように、ゆるゆると引き抜く。 
「…………く」 
 絡みついてきやがる……。 
 同じ速度で貫く。奥まで、ぎゅうぎゅう俺を突き込む。 
「…………っ!」 
 ああ、吸い込まれるようだ……。 
「……くは……あ……っ」 
 しかし、それは、どう聞いたって歓喜の声ではなかった。身体中が小刻みに 
震えていて、……そんなに痛いのか、そんなに苦しいのかと、今更ながらに俺 
は気付いた。 

 急激に頭が冷えた。身体は熱くたぎったままで、それでも俺は思い遣りを総 
動員して、なるべく優しく、ナギの中から抜け出した。 
「…………っはあ!」 
 俺から解放された彼女は、ベッドに身体を投げ出して、窒息させられかけた 
被害者みたいにはあはあ呼吸を繰り返していた。 
「悪かった」 
 抱き寄せる。どうか嫌わないでくれと願いを込めながら。 
「調子に乗りすぎた。お前……、」 
 リボンのまとわりつく彼女の内股。赤く残る、一筋の。 
「初めてだったってのに、な」 
 かぷ! 
「いてっ!?」 
 肩を思い切り噛みつかれた。本来ならば平手だろう、リボンのせいでそれが 
できないから、門歯を立てての全力抗議。 
「痛かったんですからね!」 
 泣き声混じりの絶叫。 
「本当に、本当に痛かったんですから!」 
 ぽろぽろ零れる涙。 
 無理強いをして、泣かせて、その泣き顔さえ愛しくて。 
 俺は涙にキスをした。しょっぱい、はずが甘くも感じた。 
「ゴメン。今日は、ここまでにしよう」 
 俺はナギのリボンを外し始めた。 
「ダメですっ」 
 ところがナギは、これにも抗議だ。 
「ちゃんと、その、してないじゃないですか。そういうのって、男の人は苦し 
いものなんでしょう?」 
「別に?」 
 半ば虚勢の、嘘も方便。 
「あとで何とでもできるしな」 
「そんなのダメです」 
 ぷー、と膨れるように。 
「自分からプレゼントになっといて、そんな中途半端に済ませたんじゃ、あた 
し、女がすたりますもん」 
 はあ、女がすたりますか。妙に可愛く可笑しくて、俺はプッと吹き出した。 
「わ、笑わないでくださいぃ」 
「ああ、悪かった悪かった」 
 髪を撫でて。耳元に唇を寄せて。 
「だったら、キスしてくれねえか? 俺の、身体中に」 
 こくん、と嬉しげに頷いて、ナギは自分から俺に唇を重ねた。 
 少し緩めたリボン。ぺたんとベッドに座って、そこに手をついて。 

 動物みたいに生々しく、艶めかしく、ナギは俺の身体中に唇を、そして舌を 
這わせる。 
 首筋も。胸元も、脇腹も。 
 頬も。額も。……唇も。 
 肌に眼鏡が当たって、少し冷たい。外さないのかと訊いたら、 
「あなたを、ちゃんと見ていたいんです」 
 畜生、全くこの小悪魔め! 
 彼女のキスを受けながら、俺は自分で自分を握る。こすりたて、しごきたて、 
兵舎の自室、同室の奴の留守を狙って一人でヤるときのように、だけどオカズ 
は妄想ではない、生きて動いて俺にキスする本物の、実物の、彼女。 
「すげえ……気持ち、いいよ…………」 
「……嬉しいですう」 
 どんどん余裕が失われていく中、ナギの笑顔に舌と舌とを絡め合わせて、 
「うあっ、は、出る…………っ!」 
 彼女の肩を掴み、ベッドに押し付けて、確信犯で、顔に思い切り。 
「ひゃ!」 
 レンズに、頬に、白いべたべた。口元に付着したそれを反射的に舐めとって 
しまったらしく、 
「〜〜〜っ。変な味ぃ」 
「そうか?」 
 きゅ〜っ、眉をしかめている彼女に口づけ。舌を入れ、俺の味を分け合う。 
「こりゃあ確かに、」 
 不味いとか苦いとか言う前に。 
「変な味だな」 
「でしょう?」 
 二人で顔を見合わせて、なんかもう、爆笑した。 

―〜―〜― 

 二人並んで兵舎に帰る途中。 
 どちらからともなく手をつないで、柄にも無く俺は照れた。 
「そういや、あの、俺……生で挿れちまって」 
 出してはいないが、 
「大丈夫、か?」 
「あれ? 何も知らずにそんなことしたんですか?」 
 咎める口調。 
「何かあったらどうするつもりだったんです?」 
 は、返す言葉もございません。重々反省いたします。 
「でもまあ、心配は要りませんよ。あたしもそうですけど、ヘキサメイデンを 
筆頭に、ドラゴンフォースの女の子はほとんど大概ピルを呑んでますから」 
 よっしゃあ、セーフ! 
「けど何で?」 

「シフトの問題です。重い日に当たったら大変でしょう? 特に幻操や魔導は 
集中力が勝負ですからね、周期と体調を整えるために」 
 ……女は大変だ。戦う女はもっと大変だ。 
 もうちょっと、俺、頑張ろう。 
「でも、体質的にピルを呑めない子だっているわけですから、先にちゃんと確 
認しないと。それに、ピルは性病予防には効かないわけですから」 
「つまり、俺はお前一人としている限り、この先も中出しOKってことか」 
 ニヤついて囁くと、知りません、とそっぽを向かれた。 
「で、さ」 
 一番重大で、一番訊きたくて、そして一番訊くのが怖い、質問を。 
「あの男のことは、その、諦めたのか?」 
「諦めてなんかいませんよ」 
 当然でしょうとナギは微笑む。 
 失望、あるいは絶望の色が俺の心に染み出てくる。 
「てこたあ、今日のことは、本当にただの、1回きりの、誕生日プレゼントっ 
てことか?」 
 え〜? とナギは、不安げに眉根を寄せた。 
「こんなことまでしておいて、ちゃんとおつきあいしないんですか?」 
 だーもーわからん、よくわからん。俺は結局、お前の何だ? “憧れの君” 
とは、どう違う扱いだ? それとも同じ扱いか? 
「なーんだ。……がっかりです」 
 俺から手を離してしょぼくれる。 
 慌てて俺は、ナギの手を両手で捕えて、ぎゅっと握った。 
「お前は俺のモンだ。それは絶対、間違いない。なんてったって、お前から俺 
への誕生日プレゼントなんだからな」 
 まだ不安げなナギの眼差し。 
「でもって、お前の誕生日に、俺をプレゼントするから」 
 眼鏡の向こう、ぱちくり、と瞬いてから、合点がいったか、その瞳が笑う。 
「是非、受け取ってくれ」 
 ナギは茶目っ気たっぷり、それは困るなあと言いたげに小首を傾げた。 
「……あたしの誕生日、半年後なんですけど?」 
「んじゃ、半年先取りで」 
 兵舎の前、門をくぐるとき、人目がないのを素早く確認してから、俺はナギ 
の唇を盗んだ。念願通り、30の大台に乗る前にこいつを口説き落とせたなあ 
と内心でほくそ笑みながら。 
 でも。 
「……もう、ばかあ」 
 こんな所でキスされて、ちょっぴり怒った顔のナギの方もまた、どことなく 
ほくそ笑んでるような……? 

 なんかこう、口説いたつもりで俺の方こそ、ナギに口説き落とされたような 
気がするのだが、……深く考えないでおこう。 

―〜―〜― 

「――強行偵察小隊より入電! 敵、増援部隊と接触。コマンダー級1、ソル 
ジャー級1、トルーパー級多数。救援を求めています」 
「第04スコードロン、ブルー、ゴールド各小隊は出撃準備が整い次第カタパ 
ルトへ移動」 
「ホワイト01よりブリッジへ、全騎発進準備完了」 
「了解。各騎、順次発進してください」 
「ホワイト02発進!!」 
 ホワイト小隊の緊急発進を横目に、俺達ブルー小隊も発進準備にかかる。 
「ナギさん!」 
 ナイチンゲールに搭乗しようとしたナギを、きりっと引き締まった顔で大騎 
士が呼び止めた。2、3の会話を交わして、ナギは微笑み頷き、大騎士は忠誠 
する貴婦人に恭しく一礼してアンカーフォートに乗り込んだ。 
 魔導騎士と天剣士も、頑張ろうねと声を掛け合っている。 
 俺とナギとは一瞬だけ視線を絡めて。 
 無言。頷き一つもない。けれどもそれで充分だった。 
「ブルー01よりブリッジへ、全騎発進準備完了」 
「了解。竜翔騎、発進してください」 
「ブルー07、発進!!」 
 ナイチンゲールは一路、戦場へと飛び立つ。 
動画 アダルト動画 ライブチャット