服を脱ぐのは、氷刃の方が早かった。先に風呂場に入って、中を確認する。
だだっ広い洗い場、手すりのついた湯船、何の変哲もないシャワー、以上。
ラブホの風呂には必ずあるものと信じていた、スケベ椅子もマットもローショ
ンの瓶もなくて、ちょっとがっかりする。
とはいえ、今すぐ何か困ることもない。氷刃は適当に湯温を調節して、頭か
らシャワーを浴び始めた。
初めての、二人でホテルの一室。乏しい小遣いを必死の思いで(何度「おた
べや」のクリームあんみつに誘惑されたことか!)やりくりして、本日2時間
1本勝負。胸は高鳴る一方である。
キイ、と蝶番がきしんで、ドアが開けられた。
「お、お待たせ」
流石に少し緊張した面持ちで、雪姫がそろそろと湯殿に入ってきた。
あろうことか、きっちりとバスタオルを巻いたなりで。
「雪っ、お前、それっ!」
シャワーを止めて氷刃が抗議の声を上げ、それに対して何か言い返そうとし
た雪姫は、
「あっ!?」
目をみはるなり、片拳で口元を押さえてじっと一点を見つめた。
その視線の先には、氷刃の一物。がっちりと屹立して、既に万端、戦闘準備
が整っている。
それをまともに見つめられ、さしもの氷刃もたじろいだ。
雪姫の瞳は、情欲に濡れ盛るメスのそれ、・・・では全然なくて、むしろ小
さい女の子が、フワフワした仔犬のコロコロ転げ回るさまを目の当たりにした
ときのような。
「可愛い〜っ! ポチの子供のときみたい!」
ガクッ、と氷刃はズッコケた。
ポチとは言わずもがな、蟲使いたる雪姫の最愛のペット、全長2m超(触手
含まず)の謎の多節蟲である。蟲の子供のとき、ということは、幼虫。氷刃の
ナニは、雪姫には幼虫(おそらく芋虫)に見えるらしい。
「男の人のって、こんなのなんだぁ。うわぁ、すごーい、氷ちゃんいいなーっ」
何が「いいなー」なのやら、何の警戒心もなしに濡れた床をぺちぺちと歩い
て雪姫が近づいてくる。
「色とか大きさとか、ホントそっくり!」
「・・・触って、みるか?」
氷刃は、自分で言って自分で驚いた。我ながら予期せぬ台詞だったのだ。
幾ら形が似てるからって、そんなことできるわけないでしょ! とか何とか、
雪姫は笑い飛ばすと思った。あるいはちょっと怒ってみせるか。
「いいのっ!?」
その顔がぱっと輝く。
氷刃はゴクリと生唾を飲み込んだ。まさか本気にするとは思わ・・・いや、
俺は、こうなることを期待していたのか?
内心、自分自身にギョッとしながらシャワーヘッドに手を掛けたまま突っ立っ
ている氷刃。その足下にいそいそと両膝をついて座り、雪姫はポチにいつもそ
うするように気軽に、芋虫の頭を片手でなでなでした。
「・・・っ」
快楽刺激に対し、氷刃は声を噛み殺した。雪姫はあくまで「蟲の仔」に触っ
ているのだ、「男」に触っているのだと認識させてしまうのは、何となくマズ
い気がする。
「あはっ、なんか手触りも似てる」
更に雪姫は、芋虫の背中をなでなで。
芋虫が一回り大きくなった。
「うん、堅さもこんな感じ」
芋虫の腹部を上から下へ、下から上へ、指先で線を引くように。
「こんな匂いしてたし」
首の辺りを、至極かる〜く爪でコリコリと。
芋虫はビクンと跳ねて、天高く仰け反った。
「そうそう、こんな風に喜んでくれるのよね」
雪姫の指先が芋虫の口をなぞり、少し離すと、透明な粘液がツッと糸を引い
た。
「・・・こんなトコまでそっくりなんだ・・・」
感動に打たれて雪姫は、ちらり、と目線だけで氷刃を見上げた。どこかしら
色っぽい上目遣いだ。
「じゃあ、こういうことしてあげたら、『氷ちゃんも』喜んでくれるかな?」
その一言で、ようやく氷刃にもわかった。雪姫は本気で「蟲の仔」に触って
いるつもりではないのだ、と。
だが、その意味を詳しく考える余裕はなかった。
芋虫が、お口にぱくんと含まれたのだ。
「ゆ、雪っ!」
氷刃の両掌が雪姫の頭をしっかりと挟み持つ。彼女を自分から遠ざけようと
したのか、より深く突き込もうとしたのか、どちらともつかない動き。
「んー」
両手を床についた姿勢で、雪姫が芋虫にじゃれつき始めた。
喉の奥まで呑み込んで、広げた舌で全体をからめ取る。
頭の方まで引き抜きながら、尖らせた舌を腹部に伝わせる。
あちこちに、ついばむようなキスをする。
横ぐわえで愛撫し、そっと歯を立てる。
「氷ちゃん。気持ちいい?」
熱い吐息の漏れる唇が、たっぷりと唾液をまとった舌が、芋虫の全身を優し
く責め苛む。
「気持ちいい・・・ああ、気持ちい・・・うおっ!」
身体の中心部を急速に駆け上がる射精感。我慢しようとも思わなかった。
全力疾走直後のように喘ぎながら、氷刃は改めて雪姫を見下ろした。
ドロリとした白濁液が、彼の望んだ通りに、彼女の顔を、髪を、丸みを帯び
た肩や細い腕までを汚している。
「・・・大丈夫か?」
「平気よ、どうして?」
「いや、だって」
とまどう氷刃に、雪姫が微笑む。
「ポチったらね、小さい頃、あたしの口の中がお気に入りだったの。よくこう
やって遊んであげてた。最後に体液を出すトコまでそっくりなのね」
朱色に上気した頬を白いものがゆっくりと流れ、それを指ですくった雪姫は、
溶けたバニラアイスのように舐め取った。
「ん、・・・ポチのとおんなじ味がする」
どこまで解っているのやら、いないのやら。なんて無邪気になんてエッチな
ことをしてくれるのだろう。
氷刃は蟲が嫌いだ。
だが、生まれて初めて、氷刃は蟲に、とりわけポチに、心から感謝した。今
ならば、あの不気味な姿にも親しみを覚えるかも知れない。
「それでね氷ちゃん」
「なんだ?」
雪姫の身体を洗ってやろうとシャワーを準備した氷刃に、ザザザザと何かの
気配が肉薄する。
バタン! とドアが開け放たれ、巻き起こる風に湯気が渦巻き、そこから無
数の触手が湧き出て氷刃に殺到した!
「次は触手プレイっていうの? やってあげるね」
にこにこしている雪姫の顔が触手の向こうに消える。
蟲に親しみを覚えるかも、だって? 氷刃は自分の浅はかさを呪った。
親しむどころか、見ただけで全身に鳥肌が立ち、ザワザワと皮膚の上を這い
ずり回られる感触に、意識が明後日の方向へと光速で飛んでいく。
「せっかくホテルに来たんだもん、時間まで目一杯楽しまなくちゃ」
それについては同感だ。同感だがしかし。
「氷ちゃん、嬉しい?」
嬉しい、という答え以外を全く予想していない声が、どこか遠くから聞こえ
て、・・・・・。
そして氷刃は、触手の海の中で溺れた。
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